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This blog is Written by 和水,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.

ここは、株式会社トミーウォーカーのシルバーレインで活動しているキャラ『桐嶋夜雲』のブログです。
心当たりのない方は回れ右で脱出をお願いします。

※ここに掲載されるイラストは、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の
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04/30 岐路
 その日、玲人から唐突に告げられた言葉は、夜雲にとって青天の霹靂であった。

「夜雲…お前、進路は考えているのか?」
「へ?」

 そんな事は、考えるまでもない事だったからである。

 ぼんやりと寝転がっていたソファから見上げた玲人の顔は、ひそりと笑っている。
 いつも通り、の変わらぬ気配。
 それでも、夜雲の喉はからりと干上がっていく。
 他の誰にも分からなくとも夜雲にだけ伝わる空気が、迂闊な返答は命取りだと告げていた。

「…いちお、考えてる」

 唇を一舐めし、慎重に声を出す。
 その声に全く反応を示さない玲人の顔色を密やかに伺っても、意図は読めなかった。
 そもそも、戸籍を作り高校へ行けという案に、面倒だからと盛大に難色を示した夜雲に対して、3年我慢したら戻って来ればいいと説得したのは目の前の玲人なのである。
 まさに、今更、だ。
 その今更を改めて問いかけてきたという事は、このままでは不味い事態になった、という事なのだろう。
 不味い事態 ―― 高校入学前の大騒ぎの再来、なのだろうか。

「戻るさ、此処に……」
「……」
「ナニ、やっぱ幹部連中が煩いのかよ?」

 戸籍を与える、までは桐嶋組の幹部連中も特段騒ぐ事はしなかったのだ。むしろ、可愛がっていた弟子が一人前になるかの如く、祝福までしてくれていた。
 掌が返ったのは、戸籍が玲人の弟である、と判明した後だ。
 それは、現組長である玲人の唯一の身内となる事を意味する。つまり組の後継者に据えるという事なのかと、それはもう大騒ぎになったのだ。
 黙り込んでいる玲人に、だから夜雲は問うた。
 夜雲が組の後継にならないという誓いを信じないヤツらが騒ぎだしたのか、と。

「いや、まさか」
「違うのか?」
「当然だ。お前を後継にしない、というのは…俺の、宣言なんだぞ」
「…あ、まぁ。そうだケドさ」

 暗に、組長の言葉の重みを匂わせた玲人に、夜雲は首を竦め、次いで傾げた。
 しかし、そうなると余計に分からないからだ。
 何故、今更の質問を玲人が発するのか。

「お前、高校へ行って…何も感じなかったのか?」
「は?」

 玲人の唐突な質問の意図を飲み込めず、夜雲の首は更に傾いだ。
 一方の玲人はといえば、溜息を堪えるかのように、く、と顎を引く。

「自分の部屋を、部室だか何だかに提供していたりしたろう」
「…ん、まぁね」
「それなりに仲良くやってきたんだろ……その子達と」
「そりゃ、そーだろ。喧嘩する為の集まりじゃねぇし」
「その子達やクラスメートと話をしていて、何も思わなかったのか、と聞いてるんだ」
「特に、何も思わねぇよ」

 噛んで含めるように問いかける玲人に、傾げた首を戻さぬままに夜雲は答える。
 明らかに質問の意図を理解していないその様子に、とうとう玲人の口から溜息が零れた。

「だから…将来の事とか、やりたい事とか…お前、今のまま戻ってきたらどうなるか分かっているのか?」
「ナニが?」
「フリーターとかそういうレベルじゃないんだぞ、組員ってのは」

 そりゃ、そうだろう。
 と。
 軽くは答えられない玲人の顔つきに、夜雲は漸く首を戻した。

「んなコト、言われたって…此処に戻る以外……」

 考えた事もなかった。

 玲人に拾われたのだ、と。
 玲人が見つけなければ死んでいたのだ、と。
 玲人の意思のみで、生かされているのだ、と。
 玲人の為にだけ、生きるのだ ―― と。

 己の名よりも先に染み込んだ、組の不文律が、夜雲の中に在る。
 当の玲人に、用済みだと言われる事など、考えもしなかった。

「俺、何か、ヘマした…とか?」
「バカか、お前。何も仕事を回してないのに、ヘマも下手もあるか」
「…じゃあ…」
「戻ってくるなとかそんな話をしてるんじゃない。戸籍があるって意味を考えろと言ってるんだ」
「???」
「職業を、どうするのか、と聞いているんだ!」
「しょ、職業だぁ?」
「念の為言っておくが、組員ってのは職業じゃないからな」
「……」

 正直に言ってしまえば、夜雲は組員が職業じゃないなんて知らなかった。
 呆れた事に、知る必要があるとも考えていなかったのである。

「まぁ、そういう風にしてしまったのは、俺にも非があるんだが…」

 玲人の呟きも、無理はない。
 高校へ行くまで夜雲の世界は、組の中だけだった。
 それ以外の世界など、テレビよりも遠い世界の話だったのだ。

「こうまで予想通りだとは…」
「へ?」
「いや、何でもない。が、こうなっては仕方が無い」
「ナ、ナニか、な…?」

 仕方が無い、という玲人の言葉に、不吉の色を感じた夜雲が怯んで返す。
 当然の事ながら玲人はそんな夜雲の様子など、歯牙にもかけなかった。

「お前、大学へ行け」
「…………は?」
「大学へ行って、もう少し考えるんだな…お前自身の事を」
「ナニ、それ?」
「学部なんかは…ま、考えるのが面倒なら法学部にしろ。潰しがきく」
「いや、ちょっと……待って…てば」

 混乱の真っ只中な夜雲には目もくれずに、話は終わったとばかりに玲人は部屋から去った。
 入ってきた時と同じく、実に唐突に消えた玲人に、呆然とするしかない夜雲である。

 唯一、分かった事といえば。
 これから、猛勉強しなければならない。
 という事だけだった。


―― 今は、まだ。
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