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This blog is Written by 和水,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.

ここは、株式会社トミーウォーカーのシルバーレインで活動しているキャラ『桐嶋夜雲』のブログです。
心当たりのない方は回れ右で脱出をお願いします。

※ここに掲載されるイラストは、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の
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10/24 進む路
「玲人ってさ……何で俺を拾ったんだ?」

 夜雲にとってソレは、特に思い詰めた質問ではなかった。
 ただ、いつか玲人に聞いてみようと思い立って、今度玲人に会ったらと思い、その今度が今だっただけである。
 一方、聞かれた玲人は何とも奇妙な顔つきで夜雲を見返していた。





 やがて夜雲を探るように見ていた玲人の視線が向かいのソファを指し示し、夜雲は大人しくそこに座った。
 玲人にしては珍しく、僅かばかりの逡巡の後に口を開く。

「猫を拾おうとしたんだ」
「……ねこ?って、ニャーって鳴くアレ?」
「それだ。雨音に紛れてたからか、聞き間違えてな。近付いてみたら人間だったんだ」
「…へ、へぇ。間違えるモン、なんだ…」
「あの時は、何でも良いから拾いたい気分だったからな」
「ふーん」

 猫と間違えられたとか、何でも良かったという玲人の言葉に、身体の奥底がひっかかれたような妙な心地を覚えるものの、それが何なのかまでは夜雲には分からない。
 そして分からない事を考えるよりも、今は玲人が猫を拾おうとしたという似合わなさ加減に気を取られてしまった夜雲である。
 次いで、子猫を抱いた玲人を想像して吹き出しそうになり、慌てて顔を引き締めた。ここで笑っては玲人の機嫌を損ねるだけだから。そもそも猫を拾おうと考えたのは子供の玲人なのだと、緩みそうになる顔を引き締めようと必死に己へと言い聞かせた。それならば猫くらいは……そこまで考えて、やっぱり似合わねぇと堪えきれずに笑い出してしまう。
 笑われた玲人はといえば、夜雲の反応したポイントのズレに盛大に苦虫を噛み潰す。

「拾ったまでは兎も角、晴枝に育てさせたのはつくづく失敗だったな」
「失敗?俺が?」
「お前が、じゃない。俺のミスだって話だ」
「何で……てか、ナニが?」

 玲人の口から突然出てきた晴枝という名前に、夜雲は首を傾げて考え込む。
 玲人の元に引き取られるまで、夜雲を育ててくれた女性 ── いつも微笑んでいたような気がするのに、不思議と笑い声すら思い出せない。育てられたというのに、夜雲にとっては酷く印象の薄い女性の名前が、どうしてこの話の流れで出てきたのかが分からないのだ。

「自覚が無いのが困り所だが…お前がそこまで珍妙に育ったのは晴枝のせいだ」
「珍妙???」

 何を言わんとしているのか見当が付かない風の夜雲の様子に、玲人の口元にひそりと苦笑が浮かぶ。
 後悔というものを殆どしない玲人ではあるが、夜雲を預けた人物に関しては後悔しかないといっても過言ではなかった。
 彼女が家族を失った原因も、拾った夜雲を家族の代わりとばかりに与えた事も、失敗を悟って夜雲を引き取った事も、どれもが苦い記憶となって刻まれている。

「彼女はお前を人扱いしてなかった。気付いて無かっただろうが」
「ちゃんと、食わしてくれてたと思うケドなぁ…」
「だが、名前は付けなかったろう。お前の意志も、聞いた事はないはずだ」
「……そう言われりゃ、そうだった、かな……?」

 彼女は決して夜雲を人としては見なかった。
 生き物だという認識はあったのだろうが、名前も付けず、意志を育てず、ただ食べさせて ── 後はひたすら八代目の為に死ね、とだけ吹き込んでいたのだ。
 初めから人だと思わなければ、他人の為の軽い命だと思えば、失っても哀しくはないだろうと。壊れたままの彼女は、軽やかに笑ったのだった。
 夜雲が、晴枝に対して余り覚えが無いのは当然とも言える。

「でも生きてるし、充分じゃね」
「人の苦労も知らずに、暢気な事を抜かしやがって……」

 他人事のようにヘラリと笑って返す夜雲に、思わず口調が乱れてしまった玲人がついでとばかりに小さく舌打ちを零す。
 それでも、引き取ったばかりの無表情ではなく、暫く経った後の張り付いたような笑顔でもなく、こんな深刻な話題になるはずじゃなかったと言う声が聞こえてきそうな分かり易い光りを浮かべる眼差しに、玲人は不機嫌な顔の裏側で笑いを噛み殺す。

 一方の夜雲は、どうも失敗したらしい己の返答で機嫌を損ねた男を前にして、退散へと気持ちを傾けていた。
 単なる好奇心からの質問がエラい話題へと繋がったモンだとのぼやきを、ひそりと胸にしまい込みながら、じゃあこの辺で、と腰を上げかけたが。そうは問屋が卸さないと、玲人が夜雲の機先を制した。

「…お前、進路は決めたのか?」
「ま、8割方くらいは」
「…………」

 何だそれはと問い返したかった玲人の視線に、夜雲の笑顔はまだ答える気がないと告げていた。
 その代わりという訳ではないだろうが、そこで会話を打ち切り一旦は去りかけた夜雲が戻ってきてボソリと呟く。

「俺さ、あのマンション自分で管理しよーと思ってんだけど」
「あのマンション?」

 はて、と首を傾げた玲人が所有マンションの脳内検索を終える前に、夜雲が先に答えを言う。

「俺名義になってるヤツあんだろ」
「ああ、あれか。しかし、あれは元々お前の物だろう」
「や、そうだけど…今、管理をやってもらってんじゃん」
「お前の下に居るヤツにやらせてるなら、お前が管理してるのと同じだと思うが…」
「そうじゃなくて、俺が全部自分でやるって話。鍵も、変えるし」
「……ほう」

 鍵、の一言に玲人の口元が意地悪く歪むのを、夜雲は確かに見た。見ぬ振りをしたけれど、居心地の悪さまでは解消出来ない。
 話の流れ的に良い機会だから言ってしまおうと考えてしまった事を少し後悔するものの、一度出た言葉は消えてくれない。こうなれば早く終わらせてさっさと寝ようと、そんな決意を新たにして口を開く。

「で、引っ越すから」
「まぁ、良いんじゃないか」
「ん。じゃあ、そゆコトで」
「ああ」
「あと、綾子姐さん達に…今度から名前ちゃんと呼んでって」
「……」
「じゃないと、返事、出来なさそうだから」
「分かった、伝えておこう」

 笑いを含んだ玲人の声に、今度は夜雲が舌打ちを一つ。
 この話をする時には締めの言葉は世話になりましたとか何とか、色々考えていた事があっけなく霧散する。

「それじゃ、ね」
「ああ」

 結局、いつも通りとしか言えない言葉を投げて部屋を出て ── 夜雲は桐嶋邸から去っていった。

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