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This blog is Written by 和水,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.

ここは、株式会社トミーウォーカーのシルバーレインで活動しているキャラ『桐嶋夜雲』のブログです。
心当たりのない方は回れ右で脱出をお願いします。

※ここに掲載されるイラストは、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の
世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
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[02/07 水咲]
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 彼女は焦っていた。
 汗一つかかず、髪の毛の一筋も乱さず、表情筋すら動かさずとも。
 非常に、焦っていたのである。

 何故かといえば。
 探し人が、見つからないのだ。

 探し人である法月京は、泰風水咲にとって大事な大事な親友だ。
 市内各所に複数のキャンパスを持つ、この常識外れに巨大な学園において、京と同じキャンパスの隣のクラスに在籍できたというのは水咲にしてみれば望外の幸運といえる。

 しかし、今。
 水咲は銀誓館学園の広大さを、嫌というほど実感させられていた。
 隣のクラスの親友一人、探し出せずに途方に暮れかけているのだ。

 そもそもの事の起こりは、三日前に遡る。

 その日の放課後、水咲は所属結社に顔をだそうかどうか迷いながら下校する途上で、京の後姿を発見したのだ。
 所属結社が違う為、放課後に京と一緒の時を過ごす機会は存外と少ない。であればこそ、水咲の迷いは一瞬で晴れた。

 放課後は久々に京ちゃんとデートをしよう。

 そうと決まれば、声をかけねばならない。
 デートコースをシミュレートし、誘い文句を練り上げて、いざ手を上げた、その先で。
 待ち合わせていたのだろう相手へ向かって、京は楽しげに駆け出していた。

「わざわざ迎えにきて下さったんですか?」
「おうともさ。京ちゃん、初めてだろ、俺の家来るの。迷ったりしたら大変じゃねぇか」
「ま、迷いませんよ。ハリさんから地図も頂いてますから…でも、ありがとうございます」
「気にしなくていいって。京ちゃんとのプチデートを楽しみたかっただけさ」
「ふふ、先輩ったら」
「んじゃ、行くか」
「はい」

 ショックに固まる水咲の目の前で、二人は睦まじく会話を繰り広げて、そして小さくなっていった。
 
 かくして。
 水咲の京探しの旅が始まったのである。







                    ◇◇◇







 ちなみに、この3日間というもの、水咲と京は休み時間や放課後の悉くを擦れ違いつづけていた。
 授業の合間の短い休み時間は、次の授業の準備があるから邪魔はできない。狙う機会はお昼休みと放課後のみだというのに、前の授業やHRが長引いたり、能力者としての大事な使命を果たしていたりと、兎に角タイミングが合わなかったのである。

「……いったい、何処へ……」

 きゅ、と。
 拳を握り締める。

 京の所属している結社から、点在しているキャンパスを巡り。
 水咲の思い浮かぶ限りの心当たりを探して、探して、探して。
 見つからない、今。
 あの光景を目にした時から、あえて無視をしてきたおぞましい考えに、そろり、と目を向けざるを得なかった。

 ―― あの、締まりの無い顔した、タレ目の、チビな男の……自宅、に居る? ――

 その言葉の先を幻視して、水咲の背に轟音を立てて怖気が走る。
 あんな、へのへのもへじ ―― 男の名前が分からない為、仮に名付けたらしい。略称、茂辺地 ―― なぞに、大切で愛しい京を断じて渡すわけにはいかないのだ。

「私が、救い出してあげるわ! 待ってて、京ちゃん……!」

 頭の中で茂辺地を何十通りと叩きのめしながら、水咲は再び京探しに駆け出していった。
 その背に、この3日間で一番といっても過言ではないような闘志が噴き出していたのは、言うまでもない。







                    ◇◇◇







 日も傾きかけてきた頃。
 水咲の足は、何時の間にか京の自宅へと向かっていた。
 あれから気合を入れ直して捜索に励んだものの、京の足取りは杳として知れず、水咲の足取りも重く倦んでいる。
 水咲の足を重くしているのは、疲れだけではない。
 自宅にまで押しかけては迷惑なのでは、と。
 そんな考えが過ぎる度に、足取りは更に重く、時には止まる。幾度となく立ち止まり、やがて法月家の門扉が見える辺りで、水咲はとうとう完全に踵を返してしまった。
 明日、明日こそは、と。
 己の靴先を見詰めながら、この3日間で呟き飽きたフレーズを繰り返す。
 未練がましく躊躇する脚も、己の物ではない長い影を捕らえて他人が来た事を悟り、漸く諦めて一歩を踏み出した。
 帰る道先の、十字路から伸びる二つの影。
 寄り添うような影法師に、揺らりと動く何かから目を逸らそうとして、水咲は見るとも無しに影の主達を見やる。

「……水咲ちゃん……?」
「……っ!!」
「………ん? 京ちゃんのお友達?」

 この3日、捜し求めた京の姿がそこにあった。
 茂辺地がその隣にいなければ、水咲は京に走り寄り抱きしめていたに違いない。
 しかし現実としては、思いもよらぬ京と憎き茂辺地の同時登場により、水咲は二歩目が踏み出せずにいる。
 京に会ったら言おうと思っていた事は、茂辺地の前では言い難い事この上ないし、まして茂辺地に対する鉄槌は、京の前では下し難い。
 代わりに何か当り障りの無い話題を展開すれば済むのではあるが、一念思い詰めていた為なのか、軽くパニックになっているのか、水咲の頭の中から気の利いた話題は浮かんではこず、そうこうしているうちに動けないでいる水咲の前へ、京がおっとりと歩み寄って来た。
 途端に、空気が変わっていくのが分かる。
 陽の傾きに合わせるかのように暗く翳っていった水咲の心に、暖かく柔らかな光が射す。
 京の笑顔に、自身でも知らぬうちに張り詰めていた緊張がほろり、と解けていくのを水咲は感じていた。
 そうして、解けた心がふと零す。

 この笑顔が、曇っていないのであれば、騒ぎ立てる事もないだろう、と。

 茂辺地の存在は抹消したくはあるが、それも京の笑顔を形作る一端であるのであれば、業腹ながらも許容するより道はない。
 と、ここへきて舞い上がっていた水咲の思考が漸く落ち着きを取り戻しかけたところへ、京のアップが迫る。
 水咲にとって、この世で最も美しい笑顔 ―― が、不意に曇り、水咲の心臓が、どくり、と跳ね上がった。

「水咲ちゃん、何か心配事?」
「……え?」
「相談しにきたんでしょう…私、気付かなくて、ごめんなさい」
「…京、ちゃん…」
「そうだ! 少し歩くけど、とても美味しいアップルパイを出してくれる喫茶店を見つけたの。そこでお話しましょう」

 京に手を引かれ、抵抗する事もなく歩き始めた水咲は、今の自分はどんな顔をしていたのか、と顔に空いている方の手を当てた。
 表情が変わっている気配はない。
 そう、京の瞳に映っていた己の顔は、いつも通りに何の感情も現してはいなかった。
 なのに、何故、京には分かってしまうのだろうか。
 水咲の声にならない声を ―― 時には、水咲自身ですら聞き取れない声を ―― 京は、いつも、いつでも違う事なく聴いてくれる。
 どれほど、救われているかしれない。
 水咲にとって京は、まさに砂漠のオアシス ―― 否、オアシスすらない熱砂での、一滴の水の如く。
 何者にも代え難い、大事な存在だった。

 この笑顔を守る為ならば。
 密やかに後ろから付いてくる、茂辺地でさえも受け入れてみせよう。

 京の掌の温もりを噛み締めながら、水咲は悲壮な決意を固めて喫茶店へと向かった。







                    ◇◇◇







 京が薦めるだけあって、その店のアップルパイは絶品だった。アップルパイだけではなく、セットになっている紅茶も薫り高くとても美味しい。
 アンティーク調の店内は、時間の流れが酷く緩やかで、しかしそれが苦にならず居心地の良い雰囲気を醸している。
 京はこの店を見つけた経緯などを暫く語っていたのだが、水咲が3つめのアップルパイを追加オーダーし終わったところで、漸く本題に入る気になったようだった。

「水咲ちゃん、何か……あったの?」

 上品な白磁のティーカップを、ことり、と置くと、気遣わしげに水咲の瞳を見詰める。
 何か、と問われると、水咲も困ってしまう。
 冷静になれば、まだ何事も起こってはいないのだから。
 だからといって、ここで正直に『あの茂辺地が何かしそうだから心配だった』などと、京に告げるわけにもいかない。
 どういう訳か、あの茂辺地も一緒に喫茶店にまでついてきたからだ。
 水咲がちらりと視線を後ろへ流せば、ちょうど水咲たちと店の入り口の真ん中辺りの窓際に、こちらへ背中を向けて座っている茂辺地の姿が目に入る。
 普通に話していれば聞こえないとは分かっていても、流石に本人を目の前にして言うような理由ではない事くらいは、水咲にも判断がつく。
 どうしたものかと逡巡したのを、どう受け止めたのか。
 京が、ぱちん、と手を軽く叩き、そういえば、と話題を変えた。

「水咲ちゃん、夜雲先輩とは会うの初めてでしょう?」
「…えぇ」

 茂辺地にしては、随分と洒落た名前である。
 生意気な、と、水咲は再び視線を夜雲へと流す。
 無論のこと抱いた感想は、顔にも声にも出しはしない。

「前に画材店で知り合った玻璃さんの事、お話したでしょう。その玻璃さんの紹介で知り合ったの」
「…そう」

 余計な事を ―― 水咲は、京の話でしか知らない、つまり会った事のない玻璃という人物に思わず念を飛ばす。
 今頃、くしゃみの一つくらいはしているかもしれない。

「それで、玻璃さんから誘われて、夜雲先輩のところへお邪魔させて貰ったのだけれど、とても楽しくて…少し遅くなってしまったからって、わざわざ送ってくれているのよ」
「……」

 要するに京は、夜雲は警戒するような人物ではないと、水咲に伝えようとしているのだろう。日が傾きかける程度の、それほど遅いとは思えぬ時間でも送ってくれる優しい先輩だ、と。
 水咲にしてみれば、京と一緒にいる時間を少しでも延ばす為の方便としか思えないのであるが、それを疑わずにそのまま受け止めるのが京の京たる ――……

「まだそんなに遅くないから大丈夫ですって言ったんだけど…団長たるもの当然の事だからって……」
「……え?」
「?」

 何か、とても引っかかる単語を聞いた気がする水咲である。

「…団、長……?」
「あ、夜雲先輩は、ダベリ部の団長さんなの。そこに玻璃さんも所属していて……」
「そ、う…だったの……私、てっきり……」
「…てっきり?」
「…最近、京ちゃんに会えなかったから……その…心配になって……」
「それで探してくれた、の?」

 こくり、と。
 水咲は小さく頷く。
 そして、耳の奥からは小石が転がるような、微かな音。

「ありがとう…そして、心配かけてごめんなさい」
「ううん……私が、勝手に……」

 からり。
 先ほどよりも大きくなった音が、水咲の耳を打つ。
 茂辺地改め夜雲とやらが、結社の団長だと言う事は ―― まさか。

「あの、結社の……活動場所って…」
「夜雲先輩のマンションよ。高層マンションの最上階で、眺めが素晴らしいの」
「それで、京ちゃんは…その…ダベリ部、に……?」
「えぇ、3日前に入団届を出したわ」

 己の耳の奥で、ガラガラと何か ―― 思い込みとか気合とか、茂辺地に対する敵意やら悲壮な決意やら ―― が大きく、そして派手に崩壊する音を聞きながら。
 京の眩しい笑顔が直視出来ずに、水咲は手元のカップに視線を逃がす。
 それも、続く京の言葉によって、すぐに戻される事になったのだが。

「そうだ、水咲ちゃんも良かったら入らない?」
「……え……?」
「結社の人数は少ないし、雰囲気も穏やかでリラックス出来るの」
「…でも……」

 即答で諾と応えたかったのが、水咲は迷ってしまう。
 京と夜雲が単なる結社の仲間であると、つまり水咲が危惧するような仲ではないと分かれば、その場に割り込むのは気が引けた。
 京の邪魔には、なりたくないのだ。

「水咲ちゃんと一緒の結社になれたら、とても嬉しいし…」
「入団させて頂くわ」

 即答。
 水咲にとって、京の喜びに勝る事柄など、殆ど無い。

 3つめのアップルパイを食べ終えた後に、水咲はダベリ部への入団届を書き終え、提出。
 4つめのアップルパイがテーブルに運ばれる前には、入団届は受理されていた。




                    ◇◇◇





 後に夜雲は思い出す。
 あの時。
 とても、明日には受理するから、などとは言えなかったな、と。
 その場で即答しなければならないような、切羽詰った、妙な迫力が入団届から立ち昇っていたのだ、と。
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